2012-01-01から1年間の記事一覧

幻影の彼方(46)

「ガイ者の車は、まだ、発見されてないんだよねえ」 「そうなんです。キャンプ場の管理人の話だと、・・・」 安川は、長尾たちの確認をとるように、ときどき長尾たちを見ながら、久賀管理官へ聞き込みの報告を行なった。 「そうか。当日参加していた人たちの…

幻影の彼方(45)

そんな時間帯に車を引き取りに来た者は、人目を避けるためその時間を選んだのか、その時間帯でなければ、引き取りに来ることが出来なかったのか。都会の駐車場なら夜中の2時を過ぎていても、ちっとも不自然ではないのだが、この大草原が広がる不便なところ…

幻影の彼方(44)

今度は安川が身分を名乗り 「こんにちわ。ちょっと,お尋ねしたいことがあって来たのだが、今、都合はよろしいですか?」 男は警察関係者だと知ると、緊張した面持ちながら 「よろしいも何も、暇で退屈しておりました。どうぞ、こちらへ入ってください」 と…

幻影の彼方(43)

産山(うぶやま)ビレッジ 中央署が、村井専務の犯罪の確証を得たことを知らない安川たち3人は。犯行現場と思われる、ヒゴタイ公園での目撃者探しに汗をかいていた。 地元の人に言わせると、夏休み中、特にお盆までは家族連れを中心に、年配者や若いカップ…

幻影の彼方(42)

深夜になり、村井は興奮した面持ちで帰ってきた。 「今夜のことは、すべて秘密だ。解かってるな。後日、警察が調べに来るかもしれない。そのときは、3人でピザを食べ酒を飲んでいたと証言するのだぞ」 村井は続けて 「それから、このシャツを処分してくれ。…

幻影の彼方(41)

金森は、再び中央署へ連絡して、事情を説明、新たな応援を待った。 やがて、中央署からレッカー車と、田代警部の乗った車がやってきた。すぐさま、竹内の車はレッカー移動され、附近の交通渋滞は段々と解消されてゆく。 「お前さんには、少し詳しく事情を聞…

幻影の彼方(40)

会議が久賀管理官のこの言葉でお開きになり、捜査員たちが街に散って行った頃、福都市中心部の大きな交差点で、直進車と強引に右折しょうとした車の事故が起きた。 交通警ら隊の金森巡査部長が、パトカーのサイレンを響かせ現場に駆けつけた。 直進車の正面…

幻影の彼方(39)

朝の目覚めはいつもより快適だった。ようやく残暑が和らぎ、昨夜はエアコンのお世話にならずに就寝できたからであろうか。 とくに安川の機嫌が良さそうだ。 「おはよう。睡眠時間がタップリ取れたので、今日は一日、エンジン全開で頑張れそうだよ」 「昨夜は…

幻影の彼方(38)

「どうした、長尾くん。少し疲れているようだな。午後はちょっと休んだらどうだ。聞き込みは他のものを連れて行けば、事足りるからな」 「いいえ、疲れてはいませんよ。僕をお供させてください」 「お供させてください、と、きたか。それじゃあ、連れて行か…

幻影の彼方(37)

ふたりはメニューを見て同じものを頼み、料理が運ばれてくるのを待つ。 「瑞希さん、僕はこちらへ来て市内以外に、いろんな所へ出かけました。九州には素敵なところがたくさんありますねえ」 「忙しそうなのに、そんなにいろんな所へ出かけられたのですか?…

幻影の彼方(36)

「長尾くんと、こちらの長谷部刑事が、昨日、大分県から熊本県へかけての高原地帯で、門脇議員の殺害に関する捜査に出かけたわけですが、ヒゴタイ公園というところから持ち帰ったタバコの吸殻から、門脇氏の指紋が検出されました」 安川は部屋のドアを開ける…

幻影の彼方(35)

安川と長尾が中央署へ顔を出すと、若い刑事が 「安川警部補、昨夜、朱美から連絡があり、安川さんにお話したいことがあるとのことでした」 「そうか、何かを思い出してくれたのかな。それで、朱美はいつなら都合が良いと云ってた?」 「午後2時ごろなら、と…

幻影の彼方(34)

メモには5人の名前が書かれている。5人目の名前は、はじめの字がかすれてほとんど読めない。あとの字はなんとか”田”というように読める。おそらく書いた者が、かなりあわてて書きなぐったためであろう。 あとに”田”が付く苗字を、みんなが口々にあげる。 …

幻影の彼方(33)

筑川町(ちくせんまち)村井建設 中央署へ帰ると、安川が二人の帰りを待っていてくれ 「ご苦労さん。夕飯はまだなんだろう?これから一緒に出かけるぞ」 「ああ、ちょっと待ってください。鑑識さんは、もうみんな帰りましたか?調べてもらいたいものがあるの…

幻影の彼方(32)

あずまやは、四方に柱を立て、中は三方が板張りになっていて、急な雨や強い陽射しを避けることが出来るようになっている、いたって簡単な造りの建物であった。 あずまやの横には、車を2~3台停めることができるスペースがある。どうやら農耕の際、軽トラなど…

幻影の彼方(31)

近くを見渡すと、あちこちにヒゴタイを見つけることが出来る。この時期は花も終わりに近いのであろう。大粒の花は萎れたり、形がいびつになっている。 「ここが現場とは考えられませんねえ。この時間はいつも観光客がこんなに多いのでしょう?」 「そうです…

幻影の彼方(30)

この意見には、久賀管理官がすぐに反応して 「そうなんだ、ガイ者がどこで殺されたのかは、まだ判っていない。門脇の身辺を洗いながら、その他で、手がかりが少しでもあればその方面の捜査も無視できない。殺害現場が特定されれば、そのあたりの目撃者捜しか…

幻影の彼方(29)

ヒゴタイ公園 庄原署での捜査会議は、重苦しい雰囲気の中で始まった。 今回は、広島県警から捜査一課長の橋本警視と園田警部が参加しての会議となった。 これからは、福都中央署、西署との合同捜査ということになるので、広島県警としても、所轄だけに任せて…

幻影の彼方(28)

やがて、長尾の胸から、はなれた瑞希は 「すみません。取り乱しちゃって。でも、長尾さんて、優しいんですね」 長尾は黙ってポケットからハンカチを取り出し、瑞希の目の前に差し出した。 「ありがとうございます。私、庄原へ来て良かった・・・」 「気持ち…

幻影の彼方(27)

車中では、ハンドルを握る長尾を気遣って、安川はうしろの席に座っている瑞希に、当たり障りの無いような話題について話しかける。 長尾と二人だけなら、事件についての方針や見通しなど、話し合いたいことは山ほどある安川であった。しかし、瑞希が同乗して…

幻影の彼方(26)

田代警部が 「市会議員というのは、市民にとって一番身近な立場に居る政治家だ。多くの市民からたくさんの苦情や情報が寄せられる。その過程で、我々警察が掴んでいない情報を入手することも可能なわけだ」 「つまり、その情報をネタにして、誰かを脅迫した…

幻影の彼方(25)

犯人はこれ以上聞き出すのは、無理だと考えたのか、或いは、何も聞き出せなかった腹いせと、顔を見られたことで、リンチを受け体力の弱った香澄を、現場へ運び、絞殺したものと考えられた。 無残に惨殺された香澄の遺体を前にして、長尾はもちろん、ベテラン…

幻影の彼方(24)

3人は香澄の足取り、サブへの事情聴取などの段取りを話し合った。 「久賀管理官がおっしゃるには、一刻も早く香澄を探し出さないと、彼女への危険は増すばかりだ。署をあげて捜査に乗り出すとのことでした」 「そうですね。香澄が門脇に云われて、誰のことを…

幻影の彼方(23)

瑞希、七塚原へ 3人は香澄に会って事情聴取することをあきらめ、一旦、中央署へ引き返した。 「私は、久賀管理官にこれまでの経緯を報告してきます。お疲れになったでしょうから、会議室で一休みしていてください」 谷口は車を降りると、そういい残し足早に…

幻影の彼方(22)

「そうか、あんたは何か重大なことを、我々に隠していると思っていたが、女のことだったんだな。この際、包み隠さず話してもらわないと、事件解決が遅れてしまう。その間にもっと大きな不幸が起る可能性がある」 そばで安川と長尾がどんな話が聞けるのかと、…

幻影の彼方(21)

3人が病院へ駆けつけると、処置を終えたサブが外来受付の前に並べた長椅子に座った居る。数メートルはなれた場所に目立たぬように、中央署の刑事が立っていて、3人に頭を下げた。 いち早く谷口がサブの方へ近づくと、それに気づいたサブが 「ああ、谷口さん…

幻影の彼方(20)

サブの災難 今年の夏は、最高気温が35度を上回る猛暑日が何日もあり、この暑さは9月に入っても、すぐには治まらないだろうと、気象庁は長期予報で伝えていた。 その点、標高の高い中国山地の附近で暮す人々にとっては、猛烈な暑さとは無縁の生活が楽しめる。…

幻影の彼方(19)

市場警部補の発言は、捜査員たちの興味をひき、神石高原町が殺しの現場ではないかとの意見に、うなづく者が出始める。 神石高原町(じんせきこうげんちょう)は、広島県の東部に位置し、庄原市のとなり町で、南に広がる福山市から30キロ北にある人口1万人ほ…

幻影の彼方(18)

やがて、10時が近づき、安川が長尾を手招きして 「そろそろ、会議室へ移動するぞ。今の男は誰なんだ?」 長尾は、安川には何でも話しておこうと、山田から知らされた新事実について、大まかな説明をした。 「そりゃあ、大変なニュースだ。これで、殺害現場が…

幻影の彼方(17)

ルリ玉アザミ 庄原には、夜中に帰りついた。 はじめは車中で、福都で調べたことや、湾の埋め立てにおける騒動について二人で話し合い、これからの方針などを検討し合っていたのだが、いつの間にか安川の口から出る”言葉”は、寝息に変わっていた。 長尾はハン…