2012-10-01から1ヶ月間の記事一覧

幻影の彼方(23)

瑞希、七塚原へ 3人は香澄に会って事情聴取することをあきらめ、一旦、中央署へ引き返した。 「私は、久賀管理官にこれまでの経緯を報告してきます。お疲れになったでしょうから、会議室で一休みしていてください」 谷口は車を降りると、そういい残し足早に…

幻影の彼方(22)

「そうか、あんたは何か重大なことを、我々に隠していると思っていたが、女のことだったんだな。この際、包み隠さず話してもらわないと、事件解決が遅れてしまう。その間にもっと大きな不幸が起る可能性がある」 そばで安川と長尾がどんな話が聞けるのかと、…

幻影の彼方(21)

3人が病院へ駆けつけると、処置を終えたサブが外来受付の前に並べた長椅子に座った居る。数メートルはなれた場所に目立たぬように、中央署の刑事が立っていて、3人に頭を下げた。 いち早く谷口がサブの方へ近づくと、それに気づいたサブが 「ああ、谷口さん…

幻影の彼方(20)

サブの災難 今年の夏は、最高気温が35度を上回る猛暑日が何日もあり、この暑さは9月に入っても、すぐには治まらないだろうと、気象庁は長期予報で伝えていた。 その点、標高の高い中国山地の附近で暮す人々にとっては、猛烈な暑さとは無縁の生活が楽しめる。…

幻影の彼方(19)

市場警部補の発言は、捜査員たちの興味をひき、神石高原町が殺しの現場ではないかとの意見に、うなづく者が出始める。 神石高原町(じんせきこうげんちょう)は、広島県の東部に位置し、庄原市のとなり町で、南に広がる福山市から30キロ北にある人口1万人ほ…

幻影の彼方(18)

やがて、10時が近づき、安川が長尾を手招きして 「そろそろ、会議室へ移動するぞ。今の男は誰なんだ?」 長尾は、安川には何でも話しておこうと、山田から知らされた新事実について、大まかな説明をした。 「そりゃあ、大変なニュースだ。これで、殺害現場が…

幻影の彼方(17)

ルリ玉アザミ 庄原には、夜中に帰りついた。 はじめは車中で、福都で調べたことや、湾の埋め立てにおける騒動について二人で話し合い、これからの方針などを検討し合っていたのだが、いつの間にか安川の口から出る”言葉”は、寝息に変わっていた。 長尾はハン…

幻影の彼方(16)

二人はとりあえず中央署へ帰ることにして、安川警部補に連絡をとった。安川の方も門脇の家での調べを終えて、腰を上げるところだったらしく 「おう、ご苦労さん。そちらは何か収穫があったかい?署に帰ってから詳しいことを聞くことにしょう。こちらの話もそ…

幻影の彼方(15)

駅前まで来ると、派手な看板のパチンコ屋”奉天”は、すぐに見つかった。近くのファミレスで昼食を済ませ、二人は騒々しい音楽をが鳴り立てている店の中へと入っていった。 店で、身分を名乗り、サブに会いたいというと、店のものは、すぐに奥の部屋へ案内して…

幻影の彼方(14)

店の中は、長いカウンターの向こうに厨房があり、カウンター脇の通路の反対側には5つのテーブル席。20人程度で一杯になりそうな広さの店であった。 カウンター越しに立ち上がった60歳ぐらいの男が、開店前に訪れた二人組を見つめた。 谷口が警察官の徽…

幻影の彼方(13)

長尾は気持ちの高ぶりが治まらないまま、寝つきの悪い夜を過ごしたが、いつもより早い目覚めを迎えた。 はなれたベッドでは、安川が軽い寝息を立てている。安川の睡眠を妨げないように、そっと、ベッドを離れた長尾は、一階のフロントへ降りていった。 フロ…

幻影の彼方(12)

君子は、家庭にあって、夫として、父親としての門脇の様子には、いろいろと涙を交えながら語ったが、市会議員としての夫の生活には詳しい話は、何ら出来なかった。 ひとしきり、話を聞いた後から安川が 「奥さん、ご主人の部屋を見せていただきたいのですが…

幻影の彼方(11)

庄原から九州の北部に位置する福都市までは、広島に出て、そこから新幹線を利用すれば、3時間弱で行ける。 しかし、現地で動くことを考えれば、車の方が便利であろうとの結論になり、長尾の運転で庄原から高速道で福都市を目指すことになった。 大阪や神戸…

幻影の彼方(10)

2回目の捜査会議が開かれた日の夕方、耳寄りな情報が入った。 福岡県警からの情報で、8月22日から行方不明の男性ではないか、との、問い合わせであった。 すぐに遺体の写真が、服装や身長などのデータといっしょに送られ、折り返し受けた連絡で、行方不…

幻影の彼方(9)

それぞれの部署へ帰ろうとする捜査員たちの間を縫うように、長尾が警部補の安川に追いつき、 「安川さん、これは遺体のズボンの折り返しから見つかった、アザミの葉なのですが、鑑識の班長さんが、死体を遺棄する途中で現場のアザミがズボンについたのだろう…

幻影の彼方(8)

庄原市は、人口4万人弱の中国山地に広がる自然豊な地方都市である。合併により全国で9番目という面積をもつ自治体になったが、その広大なエリアの治安を受け持つのが、庄原警察署である。 その庄原署で、早速、捜査会議が開かれた。 会議をリードするのは…

幻影の彼方(7)

「私は、庄原署の安川といいます。あなたが最初に遺体を発見したのですね」 中年の安川と名乗る刑事に続いて、若い方も 「同じく、庄原署の長尾です。発見当時の様子を詳しく聞かせてください」 詳しくも何も無かったのだが、菊川は二人の刑事に発見時の様子…

幻影の彼方(6)

七塚原SA 中国山地を横切り、関西方面へ伸びる中国自動車道。 周南市から広島、岡山を抜ける山陽道の開通にともない、交通量は激減したが、山陰方面への用足しに利用する人々にとっては、欠かせない重要な大動脈である。 中国山地は、標高数百メートルとい…

幻影の彼方(5)

この日、門脇は幼い頃からの同級生である方島三郎を誘い、エトワールへやってきた。 方島は通称”奉天のサブ”といい、門脇の大事な情報源の一つとして、裏から支える役割を担っていた。 重大な情報をもらった後などで、いっしょに飲み屋の暖簾をくぐることな…

幻影の彼方(4)

ホテルの予約は香澄がおこなう。香澄の仕事柄、午後の早い時間にチェックインできるホテルが二人の希望であった。 香澄が先に来て、チェックインを済ませ部屋へ入る。30分ほどして、門脇が何気ない風をよそおいエレベーターの方へと足を進める。こんなとき…

幻影の彼方(3)

その夜、明日の議会用の資料に目を通していた門脇の携帯にあいつから連絡が入った。 「こんばんわ。先日資料を送っていただいた○○です」 「ああ、あんたか。結論は出ましたかな」 「それで、近々お会いした上で、もう少し詳しくお話をうかがって、決めたいと…

幻影の彼方(2)

福都市人工島 福都市の6月定例議会は、冒頭から異様な雰囲気の中で始まった。 九州一の大都市である福都市は、昔から中央の官庁や大企業の支社、支店が置かれ、西日本有数の政治、経済、文化の中心都市として,近年著しい発展を遂げた。 ところが、急激に増…

幻影の彼方(1)

空はぬけるように青く、真っ白な飛行機雲が、見事な直線の航跡を描いて東のほうへゆっくりと伸びてゆく。 少し視線を下げると、遠くにギザギザした鋸の刃を思わせる形と、右へ緩やかな勾配が続く山の稜線が、まぶたの奥にかすむ。 目の前には、風が吹くたび…

あ!官兵衛

2014年の大河ドラマが、「官兵衛」に決まった。 地元の新聞は、今朝のトップニュースとして、大きく取り上げている。 軍師・黒田官兵衛は豊前国中津12万5千石の領主となり、中津市では、「豊前国中津黒田武士顕彰会」と言うもの を2005年に発足さ…

カニ・マンション

台風が去って青空が広がった。 久しぶりに海のほうへ車を走らせた。25分ほどで目的地へ到着。 波が穏やかで、台風で海面がきれいに清掃されたのか、きれいな海が広がり心が癒される。 帰り際に駐車場への坂道を上っていると、「カニ・マンション」と書かれた…