幻影の彼方(16)

 二人はとりあえず中央署へ帰ることにして、安川警部補に連絡をとった。安川の方も門脇の家での調べを終えて、腰を上げるところだったらしく
「おう、ご苦労さん。そちらは何か収穫があったかい?署に帰ってから詳しいことを聞くことにしょう。こちらの話もそのときにな」
 安川の口調からは、昨日とはかなり違って、いつもの元気が回復している様子であったが、声の調子からあたらしい事実関係の発見は、期待できそうにないなと、想い長尾は携帯をたたんだ。
 中央署の会議室を借りて、3人は今日の結果、問題点などを出し合い、検討を始めた。途中から顔を出した管理官の久賀警視にも入ってもらう。
 これまでの経過などを説明し、それぞれが話しに落しはないかなど確認しながら、事実関係の整理を進めてゆく。
 警察での検討会では、同じことを何度も確認し合って、矛盾点が無いか、重大なことを見過ごしていないかなどを、チェックしていく。特に先入観を持たない久賀警視などに、第3者として話を聞いてもらうことも重要だ。
 その中で、門脇が福都湾の埋め立てにともなう、人工島の件に異常な関心を示し、資料を集めていたことが今回の事件の引き金になったのではないか。これは久賀警視を含んだ4人の共通な思いだと言えた。
 谷口と長尾の捜査過程で、奉天のサブという門脇の昔の同級生が、たびたび門脇と示し合わせて会っていたことも、安川や久賀の大きな関心事となった。
「当面はサブを泳がせて、これから誰と連絡を取り合うかなど、注意を払っていかなきゃあならない。サブが姿をくらますと言うことはないだろうが、面の割れていないものに、動向を見張らせる必要があるな」
 久賀警視が腕組みをとかぬまま、つぶやく。
 その後を安川が
「そうしていただければ、ありがたいです。私の被害者宅での調査は、ひと段落しましたので、一度、庄原署へ帰ろうと思います。あちらで作戦を練った上で出直します。
中央署の皆さんに、ご苦労をおかけしますが、どうか、よろしくお願いいたします」
 福都市で調べたいことは山ほど残っている。長尾はもう少しこちらで捜査活動を続けたい気持ちが強かったのだが、安川の意見にも同調できたので黙って従うことにした。