幻影の彼方(15)

 駅前まで来ると、派手な看板のパチンコ屋”奉天”は、すぐに見つかった。近くのファミレスで昼食を済ませ、二人は騒々しい音楽をが鳴り立てている店の中へと入っていった。
 店で、身分を名乗り、サブに会いたいというと、店のものは、すぐに奥の部屋へ案内してくれ、サブを呼び出してくれた。
 パチンコ業界の監督権を持つ警察には、ことのほか協力的なのだ。
 サブは、いかにもこの業界で、永年仕事をこなしてきたと思われる人物で、門脇と同年輩の中年男性であった。店では店長に次ぐ地位にあるという。
 谷口が質問の口火を切った。地元のことは、地元の人間にリードしてもらうのが一番効率が良い。そのことをわきまえている長尾は、できるだけ谷口に質問などは任せて、自分は聞き役に徹しようと、二人のやり取りをそばで見つめることにした。
 脇に居て谷口の質問などに落ちがあったりすれば、それを補てんするため、長尾が口を挟めば良い。
「あんたは、門脇議員が殺されたことは知っていますね。これまで、門脇氏とどんな関係があったのか、その辺のことを聞きたいのだが」
 谷口の言葉を予想していたかのように、サブは
「じつは俺、洋ちゃんとは、小中学校の同級生なんです。それで、洋ちゃんにはこれまで、いろいろと世話になったり、こちらから情報提供したりと、支えあってきたとです」
「情報提供というのは、具体的にいうと、どんなことですか?」
 サブは少し言葉を選ぶ口調に変わり
「それは・・・、例えば、どこそこの地域で、こんな問題が起きているが、住民は苦情をどこに持って行ったら良いか、困っている。なんてことですよ」
 サブの表情は、明らかに警戒心を含んだものに変わった。
 谷口は、今、追い込んだら、サブの口はますます堅くなりそうな気がして、柔らかい口調そのままに
「門脇氏が、犯罪に巻き込まれるような案件の、ネタ元になっているのではないでしょうね。その辺のことであんたは、いろいろ知っているのじゃないかね」
「とんでもない。私は真面目に暮らしている市民の一人ですよ。危ない話などに口を突っ込むと、この街で暮しにくくなる」
「しかし、あんたと門脇議員が、はるみという居酒屋で待ち合わせて、連れ立って出て行く姿を、何度も目撃されている。少なくとも、今回の門脇議員の災難に関して、あんたが何も知らないといういい訳は通用しませんよ」
 谷口は、少しきつい言葉で、サブに詰め寄った。
 サブは、谷口から目をそらしながら、口を一文字に結び、これ以上は何があっても口を開かないぞ、という態度で両目をつぶった。
 谷口は再び気持ちを抑え、辛抱強くサブの言葉を待った。沈黙の時間だけが過ぎてゆく。
 谷口は長尾の方へ視線を移し、首を小さく横に振り
「今日のところは、このあたりで引き揚げます。ただし、あんたはいつでも参考人として、任意の事情聴取はできるので、そのつもりで居てください。我々は、あまり強引なことはしたくない。あんたの出方次第だということも忘れないように」
 そばで口出しを控えていた長尾が
「後で何か思い出すこともあるでしょう。そのときは、中央署へ連絡してください」
 ふたりは、サブへの聴取が不発に終わったまま帰るのが不満であったが、署へ帰って作戦を練り直そうとの想いから、店をあとにした。
 帰りの車の中で
「サブは我々に知られたくない秘密を守ろうと必死の様子でしたねえ」
「長尾さんもそう思いましたか。彼は、かなり重大なことを隠していると思いますよ。あまり強情に隠し通せば、任意で取り調べるしかありませんねえ。叩けば埃の出る奴らのことですから、安川警部補とも相談の上、今後の対応を決めましょう」