幻影の彼方(2)

 福都市人工島
 
 福都市の6月定例議会は、冒頭から異様な雰囲気の中で始まった。
 九州一の大都市である福都市は、昔から中央の官庁や大企業の支社、支店が置かれ、西日本有数の政治、経済、文化の中心都市として,近年著しい発展を遂げた。
 ところが、急激に増加する人口などに都市開発が追いつかず、近郊の住宅都市を含め乱開発が、都市機能を歪めながら進み、住人の多くが気づき始めた頃には、いびつな開発のツケが人々の不満の火種となっていった。
 行政や議会は、それらの問題点を解決する一つの策として、福都湾の浅瀬を埋め立てて、そこに人工島をつくり、都市機能の一部を移そうとの構想を発表した。
 5ヵ年計画のもとで、このビジョンは実行に移され福都湾の東部の浅瀬が埋め立てられ、広大な人工島が姿を現した。
 人工島には、緑化の一部として、成木のケヤキを数百本購入して移植。新しい行政の中心地としての景観を充実させるという名目で、大きな庭石を運びいれ、為政者の一部が満足するような新しい地域づくりが着々と進んでいった。
 ところが、ケヤキの大木や、巨大な庭石の購入に関して、常識を超えた巨額な税金が使われ、闇の中で相当な汚れた金品が飛び交ったのではないかなど、マスコミが騒ぎ始めた。
 呼応するように議会でも、この問題は取り上げられ、同時によからぬ噂が市民の間に広がっていった。オンブズマンなどの調査により、警察も動き出し行政に関わる市の職員や議員の一部と、業者の癒着構造が鮮明になり、大きな社会問題へと発展していった。
 市民の血税を食い物にしたこの騒動は、連日、マスコミがトップニュースとして取り上げ、多くの逮捕者や懲戒免職者を出した。
 ようやく、この問題が終息に向かおうとしたころ、市長が市民の多くが利用してきた市民病院の、人工島への移転構想を発表。福都市の西の地域で生活をしている人々が、まっ先に移転反対の声を上げ、小児科が人工島に移ったときの不便さを不満とする若い母親たちからも一斉に反対の大合唱が起った。
 そうした背景のもとで開かれた、今回の市議会だったのである。
 野党議員の追及は、たくさんの資料を前に峻烈を極め、市長の答弁は何度も立ち往生しながらの苦しい対応になった。
 さらに、市長派ともくされる与党系の議員からは、野党の質問に対して野次や罵声が浴びせられ、質疑は何度も何度も中断された。
 中でも3期目の中堅野党議員である門脇洋三の質問と追求は、舌ぽうするどく市長や答弁に立った開発公団の理事を大いに悩ませた。
 議長が頃合を見計らい、本日の会議の終了を強引に宣言して、議会初日は怒号飛び交うなか、なんとか閉会したのである。