幻影の彼方(25)

 犯人はこれ以上聞き出すのは、無理だと考えたのか、或いは、何も聞き出せなかった腹いせと、顔を見られたことで、リンチを受け体力の弱った香澄を、現場へ運び、絞殺したものと考えられた。
 無残に惨殺された香澄の遺体を前にして、長尾はもちろん、ベテランの安川も、犯人に対する怒りが爆発寸前まで、高まるのであった。
「ここは、鑑識さんに任せて、我々は署へ引き揚げます。すぐに捜査会議が開かれるでしょうから、庄原署のお二人にも、出席をお願いすることになると思います」
 田代警部は、そういい残して現場を後にした。
 3人は、香澄に会って話を聞けば、事件の真相にかなり迫ることが出来ると、期待していただけに、気持ちの落ち込みと、先回りして香澄を葬った犯人への憎悪の気持ちが頭の中で交錯する。
 冷静さを取り戻した安川が
「事件を追っていると、こういったことはよくあることさ。犯人も必死の想いで逃げとうそうとするからなあ。しかし、この犯人は絶対に許せねえ。俺は必ず犯人を暴き出してやるぞ」
 いつになく犯人への憎悪を、強い口調で言い放つ安川に、長尾ははっきりと大きくうなずき返し、同調の意を示した。
 3人が中央署へ帰ると、すぐさま捜査会議が始まった。
 香澄の遺体がどうして発見されたか。死因ならびに遺体の様子はどんなであったか。殺害された時刻はいつ頃なのか。などが、早めに引き揚げた鑑識員から報告されたあと、久賀管理官から
「この事案は、先日、広島県の庄原署管内で発見された、福都市市会議員である門脇洋三氏の殺人事件の延長上に起きたものと考えられる。門脇氏の事件がどのようなものであったのか、庄原署の安川警部補に説明をお願いしたい」
 管理官からうながされて、
 安川は、七塚原のサービスエリアのすぐそばの荒地で発見された門脇議員の遺体、これが殺しに間違いないとわかり、その真相を追究していくなかで、香澄という女性が事件の鍵を握っていること。
 その香澄が8月25日から消息不明になっていたことなどを、説明していった。
 安川の説明が終わると、管理官は
「このたびのホステス殺害は、門脇氏の事件と犯人は同一か、そうでない場合でも、どこかでつながっていることは間違いないと、思われる。今後は、庄原署、西署との合同捜査の体制を作って、事件の解明にあたりたい」
 何故、門脇は殺されたのか、犯人の狙いと動機は?など、この時点では何一つ判っていないことだらけだ。捜査会議では、それを一つ一つ検証しながら捜査を進めていくという方針が決まった。