忘れもの

 昨日の南岸低気圧は九州から関東まで大雪を降らせて、ひどい足跡を残した。
通勤、通学の方々はさぞや厳しい環境に置かれたことだろう。
 
 私の町では午前11前から雨が雪に変わり、午後2時過ぎまで降り続いた。
田畑はすぐに白くなり、道行く人もコートの襟を立て寒そうに通り過ぎる。
 
 だが、午後3時ごろから日差しが戻り、大きなアクシデントはないまま無事に暮れていった。
 そこまでは良かったのだが、家内が老人施設に提出する書類を、飯田高原の家に忘れてきたようだ。家の中、車、帰りに立ち寄った叔母の部屋と、あちこちを探したが見つからない。
 
 あと、探していないところは、飯田の家だけ。恐らくそこへ忘れてきたに違いない。
家内は、今朝起きると、外出の支度をしている。
私が「こんなに早く、どこか出かけるのか」と聞くと、
 
 飯田高原まで行きたいとのこと。
「飯田には我々の車では、近寄れないぞ」
「どうして、こんなに天気がよいじゃなにの?」
と、窓の外を眺めて、私に言い返す。
 
 どうも、飯田高原の冬の恐ろしさを、家内は未だに認識していないようだ。
私が「こちらの天気がいくら良くても、あそこは別世界。今日出かけても誰も居ないぞ。第一郷には、雪が深くて立ち入れない。途中の山越えで凍結した路面をこの車で運転するのは、死にに行くようなものだぞ」
 
 私が、飯田の天候を調べて
「ほら、午前10時の気温はマイナス8度だ。昨日降った雪はまるで解けてはいない。山道に入るところで、チェーン規制が出ていると思う。それでも出かけるのか」
 
途端に家内は、元気を失い、無口になった。
観光地だから、大きな道路はすぐに除雪車が出て、除雪を行うのだが、郷の中は50~60センチの雪が積もり、自分たちで雪かきをしなくては家にはたどり着けない。
 
 家内は目の前の天気で全てを判断する。
100キロ近く離れた高原の天気など、想像できないようなのだ。
 
 私がネットを開いて、飯田高原のスキー場の写真を見せる。それでも「ここはスキー場だから雪があるのは当たり前だ」と言う感覚しか持てない。
 
 仕方がないから、飯田の知人に連絡して、道路状況を聞いてみる。
すると「雪が全く解けていないから、来ては危ないよ。私たちもあまり外には出ないようにしている」と、現地の様子を教えてくれた。
 
ようやく納得した家内は、あきらめたのだがすっかり元気を失くした。
 私は、路面が凍結した飯田高原の坂道で、バキュームカーに追突したことがあり、車の前部をめちゃくちゃに壊した経験がある。
 
 そのため、冬の季節は天候と気温を調べて、これなら大丈夫と言う時だけ出かけることにしている。
 今週は、近寄れない日々が続きそうだ。
 
 家内は、書類提出の日を気にして居るが、命には代えられない。
こんな時は、寒気が通り過ぎるのを待つしかない。
 今日は、草津白根山が噴火して、亡くなった人も出たようだ。
もう、ロープウエイは動き始めたのだろうか。厳しい寒さの中救助を待つ人々が一刻も早く下山できることを祈りたい。