世捨て人

 今日、9月23日の私の町は、いつもより何となく華やかな雰囲気だ。
母校である中学校の運動会や、すぐ近くの天神様のお祭りなどで、小さな街はいつもより多くの人出で賑わっている。
 
 私たち夫婦は、叔母が暮らしている近郊の街から夕方帰宅したのだが、車が通ることが出来にくいほどの人出で
「何だこりゃあ、いつもは静かな町なのに、何が興ったのか?」
と、通行人へ危害を加えないように細心の注意を払いながら我が家を目指した。
 
 そんな中、知り合いの人たち何人かに合う。
「先生、私映画を見に行ったのよ。泣けて仕方がなかった。先生はもう見たの?」
何のことか解らない私がきょとんとしていると
「あれよ、高田でロケがあった、あの映画よ。私、あの映画のエキストラにでたんよ」
 
 ここで、私はやっと気付かされた。
そうだ、広木隆一監督の映画「ナミヤ雑貨店の奇蹟」が全国で封切られたのだ。
東野圭吾さんのベストセラー小説を映画化したもので、この映画のほとんどは我が町でロケが行われたらしい。
 
 市報には、何カ月も前からその話題が掲載されていたのだが、興味がない私は市報を読みもしなかった。
 先日、関東で暮らしている娘から電話があり、この映画が私の街でほとんどのシーンをロケしたということを知らされた。
 
 良く聞いてみると、西田としゆきさんなど名だたる名優が来られて撮影が進んだとか。
市では市民に呼び掛けて、エキストラを募集したり、スタッフの宿の手配などいろいろ協力をしたそうだ。
 
 先日、封切り前の試写会も市民に向けて行われたのだそうな。
私は、人口23000人の小さな自分の街で、そんなことが行われていることを全く知らなかった。
 普通ならいろんな方面から情報は良く入ってくる方だと、自覚しているにも関わらず世捨て人同然の状態になっていたのだ。
 
 電話で知らせてくれた娘からの話では、地元の良く知っている土地や商店などが次々に出てくるそうで、原作が作者の最高傑作といわれている、それの映画化だ。
 私は原作が良いと、映像化したものを見ない主義だが、家内から強力に映画館へへいきましょうと、半ば命令気味の要求がありそうだ。
 
 私の街には封切り用の映画館がないので、少しほとぼりが冷めたら、大分市デモ出かけて奥方のお伴をすることになるのだろう。
 このまま、世捨て人で居たいなあ。