ある会話

昨夜、ある中学生のお母さんにお会いした。
九州のお盆は、8月13~15日でこの時期になると、家やその周辺の掃除。
先祖のお墓の清掃など、日ごろの生活サイクル以外の用事が増えるときだ。
 
 そのお母さんは40代前半で、日ごろは仕事で忙しくお会いすることもあまりない。
久しぶりに挨拶を交わすと、いつもの元気が見受けられない。
 何か子どもの進学などで悩みがあるのかなと、水を向けてみると返ってきた言葉が私が予期しないことだった。
それは
「先生、私は今度の国会で決まった集団的自衛権のことで、将来徴兵制が復活したらどうなるんだろうかと、気にかかっていましてね」
との返事だった。
 私はガ~ンと頭を殴られたような気持になって、すぐに、自分の意見を述べようとしたが、思いとどまりもう少し詳しく話を聞いてみようと、そのお母さんに
「進学の悩みかなと思ったら、そんなことだったの?」
と、さらに想いを吐きだすように促した。
「先生も知っての通り、我が家は子どもが一人でしょう。徴兵制が復活したら子どもは戦争に駆り出されるのか。それは絶対に困る。何とかしてそんな国民が望まないことを回避できないかと、考え込んでしまうのです」
と、真剣な表情で訴える。
 
 このお母さんは4年生の有名大学で学業をおさめ、それなりの教養豊かなご婦人である。当然、世の中のうごきや日本を取り巻く世界の情勢などについても、自分なりのしっかりした意見を持っている人なのだ。
 
 私は少し唖然としながら
「どうして徴兵制が復活しそうだと考えたのですか?」
と、問うた。
「だって、どの新聞にもそのことを書いているし、テレビでも有名な偉い人がそんな発言をしていますよ。日本が戦争する国になるとか、アメリカが世界の裏側で戦争を始めたら、日本もそれに協力して自衛隊を派兵するとか言ってますよ」
 
 私は今まで、左派勢力がいろいろ過激な言葉を使って大衆を煽っても、限界があるだろうと深刻には考えなかったが、このお母さんの気持ちを知って愕然とした。
 
 そういえば、月曜日の夜は郷に来ていた仲間とBBQで盛り上がったが、その仲間も「自民党はすぐに強行採決して、数の力で決める強引さが目立つ。俺は安保関連法案には反対だ」
と言っていた。
 
 共産党民主党の、国民の不安を煽る行動が、マスコミの主張との相乗効果を発揮して私が考える以上に、大衆の心に浸透していることを否応なしに感じさせられた。
 
 郷の仲間との話は、政治や宗教関連の話題は避けるようにしているので、最近はあまり反論したり、熱い議論になることはしないようにしている。
やんわりと、反対は良いけど、もし、仮に外国に攻められたらどうしたらよいと思いますか?
 と聞いてみた。
返事は返ってこない。この人は、いつもただ反対だと唱えるだけで、それでは危険を回避するためにどうしたらよいのかと聞くと、民主党ではないけど、対案が示せないのだ。
 
 私もそれ以上の深入りは止めて、ソフトバンクスのチーム力や芸能の話題などに切り換えて、平和な夜のひと時を過ごした。
 
 さて、40代のお母さんの話に戻るが、このお母さんは小学生の時から高校を卒業するまで8年間私のところに通い、その後も交流を続けている。
その子どもも同じように小学生の時から、入塾してもう中学3年生だ。
 ふつうは、子育てや進学、男女のお付き合いなどの相談事で、日本の進むべき方向性や世界情勢に関わる話題は、平素は皆無と言ってよい。
 
 正月などで帰省した連中が集まるときは、政治や経済、世の中の動きに関する話題が多いのだが、話題によって私と家内の担当分野はすみ分けられている。
 
 子育てや進学、就職相談は二人で、恋愛や付き合いの悩みは家内の担当。政治がらみの話は私の登場となる。
 
 それで、このお母さんの悩み(?)は私のところにまわってきたということだ。
私は、充分話を聞きだしてから、
① 日本は憲法での制約があり、徴兵制は実現できない。
② もし、強引にそれを行おうとしたら、国中で反対運動がおこり,どんな政府も実行できないはずだ。
③ 日本からよその国に戦争を仕掛けることはない。
  我々日本人は、平和の尊さを身にしみて感じている。
④ 子どもなど子孫が、今の平和な暮らしを保っていけるようにするには、備えは必要だ。それが、このたびの安保関連法案なのだ。
⑤ あなたが子どもの時代とは、国際情勢は大きく変わっていて、中国は自国から遠く離れた他国の近くの海を埋め立てたりしながら、領土の拡張に懸命だ。
 すでに、沖縄も狙われているのだが、マスコミは発表をしない。
そのわけは、中国に不利なことは握りつぶす。日本に不利なことはそれに尾ひれをつけて発表するというのが、多くのマスコミの使命だとかん違いしているからだ。
⑥ 日本の有名人といわれる人々の多くは、口触りの良いこと、大衆受けするポピュリズムの信者だ。彼らの言葉に騙されるのはどうかと思う。
 
 長い時間が取れなかったので、こんなことを気持ちを静めて話した。
彼女は、どこまで私の話を納得したかは、定かではないが、徴兵制についてだけはその心配をしなくてよくなったと、明るい顔で帰宅していった。
 
 マスコミや進歩的文化人といわれる人たちの発言力。共産や民主の過激な言葉と矛盾した姿勢など無関係に、表面だけをとらえる人々にはインパクトのある言動こそが心に突き刺さるようだ。
 
 私は機会があるときは、それを逃さず一人でも多くの人に訴えて、日本の行く末や子どもたちの将来について、啓もうしていく必要性をひしひしと感じずにはいられない夜になった。